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14.旅行用カメラ16.最近撮っている写真について(2018年)


ペンEEシリーズ(以下ペンEEと略す)の美点は「シャッターを押すだけで撮れる」ということではありません。ペンEEが発売された当時はそれが美点であり、画期的な機構だったわけですが、今となっては当然のことです。一眼レフからデジカメまで、ありとあらゆるカメラが「シャッターを押すだけで撮れる」ようになっています。


EEを使っていると、そのあり方がミニという車の存在にちょっと似ているな、と思います。1959年に発売された当時、ミニはもう驚くほどに徹底した実用車でした。コンパクトだけど大人が4人乗れて、ちゃんと走って、燃費もよくて、まあまあ安い。しかも、車としての基本性能も高く、モンテカルロ・ラリーにおいて3度の総合優勝を果たし、クーパーというモデルによってスポーツ・カーとしての地位も築くことになります。

しかし、ミニは2000年まで生産が続けられましたから、その晩年において誰もミニが実用車であるなんて誰も考えていませんでした。しかし、人気はありました。商売として成功したかは不明ですが、別格ともいえる地位にいたことは事実です。


こんにちにおいて、時代遅れの実用機たるペンEEをわざわざ使う理由はどこにあるか。


まずデザインがいい。恰好いいというよりは可愛らしいと表現されるべき、完成されたデザインだと思います。そして、作りはチープですが、少なくとも安物ではない。使っていてその安っぽさに嫌気がさしてくるカメラは世の中にたくさんありますが、そういう類のカメラではありません。そのチープさは愛されるべき性質のものではないかと思います。

そして、レンズがまともです。固定焦点というのはレンズ付きフィルム並ですが、そういうちゃちなものと一緒にしてはいけません。3群4枚構成のズイコー・レンズが付いていて、固定焦点とはいえ、適度に絞り込まれる明るいシーンであれば遠景もシャープです。まあ設定されている焦点距離が3~4mの間ですから、もともと遠景をメインに撮るカメラではありません。その意味で28mm(135システム換算で40mm強)という焦点距離は、10m程度までのものを撮るには大変使いやすい。

露出制御に関しては、シャッター速度が2速切り替えで、細かい露出は絞りを変化させて対応する機械式の自動露出(当時自動露出のことをEEと呼びました。今はAEですけど)を採用しています。これはバカにできません。初めは稚拙にすぎるんじゃないかと馬鹿にしていましたが、ASA(現在のISO)感度設定リングで露出補正もできますし、段階露出を切っておけば、リバーサルを通してもまあま使えます。もちろんネガなら何の問題もありません。

ファインダーはアルバダ式の単純なもので、歪みもありますが、ブライトフレームも入っていますから、写る範囲の見当をつけるくらいであれば充分使えます。

そして重要なのがその価格です。街の中古カメラ屋さんで買うと1万円台ですが、ヤフオクであればレアなモデルでない限り、3000~5000円程度で買えてしまいます。


この絶妙なバランスこそが、ペンEEの存在意義だろうと私は思います。カメラとしての質感を有していて、露出は(一応)ちゃんとコントロールできて、レンズとファインダーはまとも。そして、使い方は簡単だし、所有欲をちゃんと満たしてくれます。しかも安い。

このカメラをバッグに忍ばせて、いつも歩く道や、よく行く街をパチパチと撮るのはすごく楽しい。36EXのフィルムで72コマ撮れますから、露出を補正し忘れり、カメラを傾けて撮ってしまっても気にならない。まあいいか、と次のコマでちゃんと撮ればいい。物理的にも、心理的にも身軽です。

被写体とがっぷり相対峙して、狙い通りの写真を撮るんだ、露出ばっちり、構図ばっちりじゃないと、という撮り方も必要ですが、それだけでは息苦しい。そういう気持ちになったときにこそ、ペンEEです。


デジカメでいいんじゃないのか、という話もあるでしょうが、デジカメって何か、結論を知っている推理小説みたいな味気なさがあります。

撮った写真がその場で確認できる、というのは美点のように見えて、そうでもない。クライアントの注文通りの写真を撮る必要があるプロフェッショナルには便利でしょうが、私はあくまでアマチュアですから、そんな厳密なものは求めない。どちらかというと、写真を撮ることでワクワクしたい。そして、そのワクワクの中には、どんな写真が撮れてるのかな、という気持ちもあるんですよね。もちろん狙っていたものが撮れてない哀しさは確実にありますけど、その場合はもう一度チャレンジすればいい。もし、一回こっきりのチャンスならデジカメで臨めばいい。

デジカメは帰宅後、撮った写真をPCで見ていても、あんまり楽しくない。それは結果が分かってるからです。どんな写真を撮っているか、その場で確認しているから。

フィルム・カメラは、撮るときに、どうやって撮ろうか、という楽しみがあって、現像に出している間のどんな写真が撮れてるんだろう、という楽しみがある。そして、フィルムが現像から上がってきたときにもう一度、こんな写真が撮れたのか、と確認する楽しみもある。プロじゃないからこのコマは失敗したな、と思っても、また次がある。でも、狙ったものがちゃんと撮れているときは嬉しい。私の腕もバカにしたもんじゃないな、と思ったりします。そして、予期せずいいコマが撮れているときもまた嬉しいものです。露出が思ったよりアンダーだったけど、こういう露出もありだな、とか、ちょっと画面が傾いているけど、こんな構図もいいなあ、とか。


デジカメに対してこういう思いを抱いている人がどれくらいいるのか知りませんが、私はやっぱりフィルムだな、と思います。ワクワクが多い。デジカメはがっかりが少ないですが、趣味においてはがっかりもワクワクの一要素じゃないか、と思います。

すなわち、ペンEEというのはワクワクが多いカメラなんです。フィルムという媒体ゆえのワクワクにプラスして、カメラを使うという行為そのものが楽しい。


何でもそうですけど、万人にとって魅力的なものなんてないと思います。ペンEEにしても、みんながみんなその存在意義を認める、なんてことはないでしょう。だから、ペンEEなんてどこがいいんだ、という人がいて何の不思議もないし、そういう意見に反駁する気もありません。お好きなカメラを使ってください。

それと、もし家にいらないペンEEが眠っていたら、欲しいという人にあげてください。タダでペンEEが手に入ったら、まずそれだけでワクワクしますからね。


2005年2月26日