モノクロームで撮る奈良

Nikomat FTN + NIKKOR-S·C Auto 50mm F1.4

2021年9月18日と19日で、奈良に行ってきました。ついでにキィートスから戻ってきたNikomat FTNの試し撮りもしよう、という作戦です。バックアップとしてRX100を持参。

レンズは写真の50mmとNIKKOR-O·C Auto 35mm F2の2本。フィルムはILFORD XP2 super 400の36EXと24EXを1本ずつ。

まずは36EXから、と当日の早朝に通してみたら、久しぶりすぎてカウンターが1になるまで巻き上げてしまった上に、不意にシャッターに触れて1コマ無駄にするという失態。くそっ。

実はこのとき、フィルムを巻き上げても巻き戻しクランクが回ってない、という点に違和感を感じていました。ただ、フィルムはきちんと装填した(はずだ)し、巻き戻しクランクを巻き戻し方向に回すとテンションがかかっている=フィルムは外れているわけではない、と判断していました。

それが翌日の朝、春日大社で撮りきって巻き戻そうと、クランクを回すと、ほとんど即座にフィルムが巻き上げ軸から外れる感覚がありました。これは露光してないんじゃないかな、と思いつつ、次の24EXを慎重に通して巻き上げると、36EXの時と比較して明らかに巻き上げが重い。そして巻き戻しクランクが回っている。やっぱりさっきのフィルムは露光してない、というわけで、このサイトの方法で36EXのベロを出して、もう一度撮りました。手持ちにベロの出ているフィルムがなかったので、装填されている24EXを巻き戻すときにベロを出した状態にして、それで36EXのベロを引っ張り出して、再度撮影しました。

初日に撮った奈良町の町並みや、元興寺の曼珠沙華の写真などは失われてしまって残念です。巻き戻し軸のスリットに強く差し込まず、フィルムが巻き上げられていることを確実にチェックしなかったのが原因です。巻き上げ時に巻き戻しクランクが回っていない時点で気づけよ、と思います。

そういえばEOS 30Dを使い始めたときも、メモリカードを入れずに撮影する、というミスをしました。このときは近所だったので、数コマ撮ってすぐに気づき、取りに戻りましたが。その後で同じ過ちを繰り返さないように「メモリーカードなしレリーズ」を「禁止」にしました。

Nikomat FTNとレンズについて

閑話休題。Nikomat FTNとモノクロフィルムの試し撮りの話です。

まず、カメラは快調です。もともと不具合はなかったのですが、ファインダーは綺麗になった気がします。また精度が出ていなかったらしい露出計も、室内で手持ちのカメラと比較したり、フィルムの現像結果を見る限り、正確なようです。

レンズはNIKKOR-S·C Auto 50mm F1.4とNIKKOR-O·C Auto 35mm F2の2本。焦点距離が近い気もしますが、使いやすい画角を、ということで選びました。35mmの代わりに28mmか24mmでもいいかな、と思ったのですが、少し広角すぎる気がしたのと、明るい方がよかろうと35mm。

マイクロプリズムでピントを合わせるのは、これくらいの焦点距離と明るさであれば、被写界深度が浅いおかげもあって容易でした。また、ISO400のフィルムで日中屋外、しかもシャッター速度が最速1/1000というカメラなので、基本的には絞り込むことが多く、そんなにピントをシビアに合わせる必要がない上に、遠景などでは無限遠までピントリングを回し切ってしまえばいい。

フィルムカメラでのマニュアル露出は戸惑いました。デジタルの場合は、撮影した画像を確認して露出補正する、というスタイルなのに対して、フィルムは結果が判らない上で決定する必要があります。このシーンはF5.6の1/500でいいのか、F8にした方がいいのか。リバーサルフィルムで撮っていた頃は、だいたいの感覚で決められたし、難しい場合は露出を変えて複数コマ撮っておいたものですが、今回は露出計を信じるスタイル。結果的にはフィルムのラチチュードの広さに助けられました。暗がりは露出計指示よりもアンダー目にしないといけないことまで忘れていました。

帰り道に最寄りの、といっても車で20分ほどかかる、カメラのキタムラに現像に出しに行きました。「カラーネガと同じ処理のモノクロフィルムなので店内現像もできますが、現像結果が不安なら外注先に出します」というような話をされて、すぐに現像できるのが魅力で買ったフィルムなのに外注で数日かかるのは嫌なので、店内現像をお願いしました。現像結果に不満が出ることがあるのか、と少し心配だったのですが、問題ないようです。現像+データCD作成に2時間かかる、とのこと。2時間は早いですが、待っていられないので翌日の開店時間に受け取りに行きました。費用は2本で2,684円。

ちなみにデータ化するときの処理について確認したところ「補正なし」にしている、とのことです。実際にデータを確認すると、明部が飛んだり暗部が潰れたりすることのないデータで、後処理するのにぴったりです。

デジタル化されたJPEGデータをAdobe BridgeでDNG変換して、Lightroom CCに取り込んでから主にトーンカーブで補正しています。

実例はこんな感じ。まずは補正なしと補正ありの比較。補正ありは、早朝の少し暗いイメージを求めて調整しました。

補正なし
補正あり

50mmと35mmはちょうどいい画角でした。場所によるところが多いのでしょうが、ごく自然に撮れました。フィルムカメラは撮像素子のゴミを心配する必要がないので、ガンガンとレンズを交換できるのがいいところです。

春日大社
春日大社参道
春日大社参道 灯籠と、その後ろに鹿
50mm F1.4の開放で撮影
春日大社

言わずもがなではありますが、カラーとモノクロは全然違います。たとえば、画角は違いますが、荒池ごしに興福寺の五重塔を撮影した下の2枚の写真。

荒池越しの興福寺五重塔
RX100 F4.5 1/800 ISO125

そして、最近再建された興福寺の中金堂の写真もモノクロとカラーで。カラーだと空が綺麗ですが、モノクロだともう少し雲などの変化があった方がいいな、と思います。

興福寺 中金堂
興福寺 中金堂 RX100 F4.5 1/800 ISO125

どちらが優れているか、という話ではなくて、モノクロで撮るのとカラーで撮るのとは、同じ写真でありながらも別の行為だな、と感じました。

2本追加で購入

今回、カメラにフィルムを通すときの緊張感を思い出しました。フィルムの装填前と後でカメラは全く違うものになります。手慰みに空シャッターを切ったりできない。フィルムを巻き上げてシャッターを切るたびに、確実に進行し、24コマか36コマ後にそれは終わる。

デジタルでは味わえない、忘れていた感覚でした。そして私にとってそれは、心地いい感覚でした。

この緊張感は、おそらくは結果が分からないままに進んでいくからじゃないかと思います。

モノクロフィルムとは、もともとのフィルムの結果の分からなさにプラスして、カラーで見ているものを、白から黒のトーンに置き換えるという二重の分からなさがあり、それが面白いんじゃないかと思いました。

簡単に言うと、頭を使う。目の前のカラーの風景・光景をモノクロにしたらどうなるかを想像して、絞りとシャッター速度を露出を決める。

これは面白そうです。というわけで追加でフィルムを買いました。町並みの写真でも撮りに行きたいな。今回はデジタルの感覚でバシバシ撮りすぎたので、次回は36EXをゆったりと考えながら撮りたいです。