ライカをいつかは買うだろうなという予感があります。ここ数年ずっと感じています。今のところ、欲しくて欲しくてたまらない、ということはないのだけれど、ずっと頭の片隅にあります。ただ、その「いつか」というのが具体的にいつなのかは今のところよくわかりません。たぶん、欲しくて欲しくて居ても立ってもいられない状況に陥り、藁をもつかむように何らかのライカを手にしている、というのはありそうなことです。
私が今まで買わなかったひとつ目の理由は、単純に高くて買えなかったからです。
私が写真を撮り始めた頃、M6 TTLが現行品で、おそらく25万円くらいだったと思います。当時は日本のメーカーが、ベッサやヘキサー、安原一式などレンジファインダー機を作っていて、レンズも新品が比較的安く買えたので、おそらく30万円あれば新品のライカボディと何らかのレンズが手に入ったと思います。今思えば、あのときに少し無理をしてでも買っておけば、という気もしますが、そんなことを今考えても詮ないことです。
そのときも30万円は高いけど、バルナックライカなら買えるな、と思っていました。整備済みのIIIfが高くても15万円くらいだったと思います。コシナなどのLマウントレンズと合わせれば、20万円あれば買えるな、と。でも、結局買うという決断はできませんでした。露出計もないし、測距とファインダーが別だし、フィルム装填も難しそうだし。
少し前、ライカM-Aを買おうかな、と思ったことがあります。機械式、露出計なし、というのがいい。露出計ってだいたい故障したり狂ったりするし、表示部分が劣化することもあるので、ない方がすっきりするんじゃないか、と。とはいえ、こちらは当時でもボディだけで65万円くらいしました。買えなくはないけれど、そこまで欲しいか、と言われると、まあそこまでじゃないよね、ということで買わず。
もうひとつの理由は、精神的な問題です。ひねくれているので、メジャーなもの、人気のものを買うのに抵抗がある。ライカを使ったからって「いい写真」が撮れるわけじゃないんだし、みんなライカ、ライカって言いすぎじゃないか。でも、それは興味の裏返しであることも判ってはいます。
最近、バルナックライカが安くなっていて、面白そうだな、と思います。精神的な問題があるにせよ、そもそも安ければ、まあいっちょ買って、ものは試し、と使ってみるか、という気持ちになります。IIIfと50mmレンズ込みで10万円くらいで何とかならないかな、とぼんやりと考えていました。
ちょうど先日、モノクロ写真のワークショップで近江八幡に行った折、先生がIIIfを持ってこられていました。いつものNikon FEの調子が悪かったらしく、IIIfにした、とのこと。昔から、バルナックを買うならIIIfが最もリーズナブルな選択肢だと思っているので、これはラッキー、とちょっと触らせてもらいました。その時私はOM-1で、最近大きいカメラばかり使っていたせいで、OM-1のコンパクトさに感心していたら、IIIfはそれよりひと回りほど小さい。そしてがっしりしている。裏蓋が開閉しない一体構造だから、というのもあるでしょう。そして軍艦部が機械っぽい。ファインダーも覗かせてもらうと、思ったよりちゃんと見える。実際に触って手触りを知るというのは危険です。
中古カメラを買うときって、私の場合、最初はWebから始まります。このカメラよさそうじゃないか、と。その後、情報収集。ブログを読んだり、オンラインショップやオークションサイトで相場を調べます。その流れでネットで購入してしまうこともあれば、取り寄せて実際に触って確認することもあります。また、旅先で出会うこともありますね。
情報としてその存在を知っているだけのときは、その「手触り」が判りません。「手触り」を具体的に言えば、サイズ感、重量感、操作感ということになろうかと思います。カメラを買う時に一番大切というか、決定的なのは手触りです。手触りで納得いかないものは買わない方がいい。買いたい気持ちやショーケースから出してもらった断りにくさなどが先行して「この価格でこれなら悪くないんじゃないかな」と考え始めるとよくない。論理ではなく感覚。もともと高いものは触らせてもらいませんが、これはいいな、これは欲しいな、と自然と思えるものを買いたい。
最近で言うと、Konica IIIA。気にはなるんだけど、結局どういうカメラなのか全く判らなかったので、2台取り寄せてもらって触りに行きました。どちらも基本的には綺麗だけれど、ひとつずつ不具合があったのにもかかわらず買ったのは、手触りがよかったから。このカメラが欲しい、と思いました。メッキの綺麗さ、ファインダーの明るさ、重量感、巻き上げレバーの操作感にやられてしまい、手に入れたくなったのです。ちなみに不具合はバルブが使えないこと。普通にシャッターが切れてしまいます。でも、バルブって私は全然使わないので、大きな問題ではありません。
閑話休題。ライカの話です。バルナックライカを調べるたびに思うのは、結局M3を買うことになるだろうな、ということです。NikonにおけるFのようなもので、そこを通らざるを得ない気がします。もしそうなら最初に通っておくのが賢明ではないか。Nikon Fに関しては、今のところ正解でした。F2もF3も買わずに済んでいます。
でも、デザインとかサイズ的にはバルナックもよさそうだな、とは思っていて、悩ましい。M3を買うと、35mmのフレームがある機種も欲しくなって、M2かM4か、はたまた、古いMデジタルも気になって、みたいなことになりかねません。バルナックなら50mm以外はファインダーを買うこと前提ですから、ボディが増える危険性は低いかな。
まあ、どこかで出会うまで待とう、というのが今の結論です。しかるべきときに、しかるべきところで、何らかのライカを手に入れる予感はしています。
という文章を書いたのが、2024年10月12日の昼下がり。
子どもたちを塾に送り届け、妻は子供会の用事で外出していたので、久しぶりにスターバックスで文章でも書こうとコーヒーを飲みながら郡上八幡旅行のブログを仕上げ、その次にふと書いたのが上の文章です。今までずっと気になっていたライカのことが、すっと素直に書けたように思います。スターバックスで文章を書いていると、ぽろっと素直に書けることがあります。全然ダメなときもあるんですが。
そして、その2日後の10月14日、ライカIIIfを手に入れました。妻からの誕生日プレゼントとして。ありがたいことです。
上の文章を書いてから気になって、今のIIIfの価格を調べてみました。まずはいつものマップカメラ。あまりぱっとしたものがない印象。はっきり言うと高い。次に見たのがカメラのナニワ。ここはピンキリという感じで、状態についてのコメントもある場合とない場合があり、ネット上の情報では判断できない。その他、様々なサイトで見てみても、これは、というものはなし。結局、現物を見て、触って、店員さんにいろいろと聞いて、納得行く手触りのものに出会うしかないんだな、という結論に達しました。
それなら近くの店舗在庫をあたってみよう、とまたカメラのナニワのサイトで、京都店の在庫を見ていたら、前に調べたときには気づかなかったIIIfが目に止まりました。セルフタイマーなしのレッドダイアルで6万7710円。コメントに「各部点検整備済み、フィルムインジケーターパーツ割れ、スレキズ」とあります。点検整備済みでこれは安いんじゃないか。フィルムインジケーターパーツ割れは気になるけれど。スレキズはあって当然です。70年くらい前のカメラですからね。ただ、これはボディだけの値段です。レンズもあわせて、となると安く見積もっても10万円、ライカのレンズを買うなら14万円ほどは覚悟する必要があります。ものは試し、という金額ではありません。
そのときふと、FED-2用に買ったIndustar-22 5cm F3.5の存在を思い出しました。OM-1と一緒に実家の防湿庫から持ち帰ったFED-2につけっぱなしです。ライカへの興味が高まっていたときに、そうだFED-2があるじゃないか、と持ち帰ったのですが、シャッターがダメそうでした。しかしレンズは問題なし。ということは、バルナックのボディさえあれば、一応撮影はできます。
そんなわけで、妻が一澤信三郎帆布に行くついで、K10Dのピントチェックのついでに、カメラのナニワにも行くことにしました。
用事を済ませてお店に向かいます。お店に入り、奥のショーケースを除くとセルフタイマーなしのIIIfは5、6台ありました。セルフタイマーありの方が時代的には新しいんだけど、デザイン的にはない方がすっきりしているので、まずはなしで探したい。
じっくり眺めていると、珍しく店員さんに声をかけられました。大丈夫です、と断ると、妻が見せてもらえへんの、と突っ込みます。いやまあ、最終的には見せてもらうんだけど、心の準備が必要です。それに、どういう感じで見せてもらうかというのも重要です。ネット上でチェックした6万7710円の個体だけを見せてもらうのではなく、それを軸にいろいろと質問しながら満足できるものと出会いたいわけですから。
意を決して、先ほど声をかけてくれた店員さんに、ちょっと見せてほしい、と伝えます。IIIfのセルフタイマーなしを探しているのですが、件の個体ってどうですか、と。すると、系列のレモン社で点検整備した個体らしく、巻き上げも軽いし、シャッター音も静かですよ、と。ほほう、それはよさそう。比較用に整備されていないものも出して、シャッター音を聞かせてくれます。違いは明らかです。
使い方についても、いろいろと質問しました。解説本で読んで、情報としては知っていることもありますが、実際は何も知らないので。
ピント合わせとファインダーのこと、シャッターダイヤル(高速側・低速側)の使い方、巻き戻しの仕方、フィルムの入れ方など。ふむふむ。レンズを付けてもいいですか、とインダスターを取り出します。レンズあるんですね、と店員さん。買いたいと思っていることが明白な準備のよさ。インダスターですけど、と私。いいですね、どうぞ、というわけで取り付けてみます。
距離計ってこんなに拡大されてるんだなと驚きました。ピントが合わせやすいし、二重像もくっきり綺麗。ファインダーも綺麗。古いものだし若干は靄がかかったようなクモリがあるのかと勝手に想像していたのだけれど、クリアそのもの。うん、これにしよう、と思っていると、他の店員さんに件のカメラを見せて何事か相談しています。曰く、シャッター幕にたるみがあるので、やめときましょう、と。たるんでいない個体と比較して見せてもらうとわかる程度のちょっとしたたるみです。残念ですが致し方ありません。すかさず、こちらはどうですか、たるんでいない個体を勧めてくれます。レンズを付け替えて、うん、ファインダー、距離計はさきほどと遜色なく綺麗。フィルムインジケーターも割れていない。シャッター音も静かで巻き上げも軽い。価格は63,800円。コメントは「2週間保証 スレあり」のみ。点検整備済みとは書いていないけれど、快調そうです。フィルムを通してみていいですか、と持ってきたフィルム(準備万端)を取り出すと、テスト用を貸してくれました。ありがたい。バルブでシャッター幕を開放した状態で通す方法を教えてもらいました。なるほど初見では難しいけれど、慣れたら早くなるタイプの作業です。手間取りながらも何とかできました。巻き上げと巻き戻しも試させてもらって、納得しました。操作が難しいかと危惧していましたが、何とか使えそうです。これはいいな、ぜひ欲しい。これ買います、と。じゃあストラップ持ってきますね、と時代は違うようですがライカロゴ入りのストラップも付いていました。ラッキー。
1,000円のLINEクーポンがあったので使うことにしたら、62,000円にしときます、とさらに800円引き。ありがたいことです。
レンズもフィルムも持ってきているので、近くのドトールでフィルムを通して試し撮り。一応ストラップと釣り環も持参していましたが、ストラップが付属していたので、そちらを使います。三条まで川沿いの道をぶらぶら歩きながら撮影。露出計も持参。日陰や橋の下など、シャッター速度を変化させてチェックします。
撮影は快適です。測距と構図が別というのは、一眼レフと比較すると明確に劣りますが、だから不便かと言われると、そうでもない。シャッター速度は巻き上げてからじゃないと設定できませんが、そう不便でもない。レンズ先端の絞りは操作が面倒ですが、これも毎回変更するわけではないし。
カメラの進化って、ちょっとした不便を解消してきた歴史なんだな、と古いカメラを使うとつくづく感じます。まあ、あれば便利だけど、ないからといって撮れないわけではない。露出計、自動露出、自動巻き上げ、オートフォーカス。
そんなわけで36コマ撮影し、帰りにいつもの写真屋さんで現像に出しました。フィルムはアクロスIIなので、少なくとも1週間はかかるでしょう。
いつもなら週末に現像が上がってくるのだけれど、19日に電話してみたところ今回はまだみたいです。まあ、14日に現像に出したとき、仕上がりは25日の予定です、と言われているので、週末に上がってこなくて普通なんですが、今までも受付時の納期よりずっと早く仕上がっていたので期待していただけ。
週末に仕上がったフィルムを撮影して、細々と文章を書こうと思っていたのだけれど。まあ、今回はここまで。試し撮りの結果はまた後日。